アトモスフィアの双盃

アトモスフィア(atmosphere)とは空気のことじゃなくて雰囲気のこと

スープカレー

目が覚めたとき、時刻は11時だった。

東の日光が身体に押し当てられる。血は出ないけれど痛いと思う。

 

携帯電話が鳴っている。

手元へ近づけながら、うつ伏せの状態から立ち上がる。同時にキッチンへと向かおうとする。スマートフォンを耳に寄せ、通話をスタートさせる。

 

「おはよう。」

 

もう一方の手で、家電のスイッチを静かに押す。

コンロのツマミは無い。炎も発生しない。チッチッチ、という激しい効果音も起きない。安全な設定である。

片手でフライパンの中をぐるりと混ぜる。昨日の残りのスープカレーだ。

他愛もない話をする。

なかなか沸騰しないのは、鍋の中が満タンだからだ。具材も多いし、食べきれる量ではない。料理は得意ではないし、レパートリーも簡単に増えるものではない。こだわりも無いから、これでいいと思う。スープカレーを作ったのは今回が初めてだった。

 

「またね。」

 

あっけなく通話は終了する。

換気扇の音と外からの生活音が耳に入ってくる。心地のよい湯気は視界に漂っている。

香辛料の温かい香りは、先ほどの眠気を晴れやかに解してくれていた。