苺 / 消えてしまいたい
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「こちらの商品は要冷蔵なので、保冷バッグをお付け致しましょうか?」
店員さんに聞かれたが、断った。それはレジ袋やポイントカードの提示を断るときと同じようなノリで断ったのだった。私はいつもマイバッグを所持している。
見た目、つまり容器のデザインを当てにして購入を決めた。要冷蔵について、考えていたわけではなかった。自宅のマンションには約30分で辿り着く、アイスクリームではないので溶けることもないし、まして腐ることはないだろう。
明日、飛行機で1000キロメートル先の彼氏の家に行くことになっている。このお酒を2人で飲めないことが分かった。それはとても残念なことだ。
一緒に呑みたい。一緒に面白い動画を観たい。そういう欲求は正しくて愛おしい感情だ。
腐らせるわけにもいかず、このお酒を1人で楽しみながら、スマートフォンを使って今の気持ちをメッセージにして送る。
私はお酒に強いので、まぁなんとか飲みきれるだろう。余談だけど、彼はお酒に弱いが飲むのは大好きらしく、隙あらば酒といった感じである。彼は私の吞んでいる姿が好きなようだ。実際、私たちの出会いのキッカケは行きつけのバーである。
ルビーのような酒瓶は一瞬にして空となった。1000キロメートル先の空港で調達するお酒に期待しよう。やっぱり昨日のお酒の方が良かった…なんてことになりませんように。
それでもダメなら、向こうをこっちに呼ぶしかない。そんな明日への想いを馳せながら、さらに先の未来まで思い浮かべてみるのだった。
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一日目
花束を作ってもらった。この花束を渡したい相手がいるのだ。
しかしその花束を渡す勇気が出せない。
いま、目が合った気がする。しかし彼女は十数人の男女に取り囲まれている。
あんなに強固に包囲されていたら近づけないじゃないか。
私にあの空気を割って話しかける度胸はあるのか。
何を話しかけるのが最適なのか。そして花束を渡すことは最適解なのか。
そもそも私は、この場に存在していいものか・・・?
花束は渡せなかった。
結局、その花は枯れてしまった。
二日目
コロッケを作りすぎてしまった。
最近、料理を作るのにハマっている。これはもう趣味と言ってもいいレベルだ。
とりあえずお隣さんに「おすそ分け」というものを行ってみようか。
右隣の老夫婦はたまにお漬け物をくれるし、左隣の大学生は立ち話する程度だが仲が悪いわけじゃない。
しかしながら、老夫婦は旅行に出かけ、大学生は短期のリゾートバイトで留守であった。
結局、作りすぎた料理たちは食べきれず、捨ててしまった。
三日目
図書館に行こうと思ったら、臨時休館だった。
四日目
たまにはカフェに行こうか、そうだ、先月、雑誌に紹介されていた、コーヒーの美味しい喫茶店なんてどうだろう、落ち着いた雰囲気で、とても楽しめそうだ。
扉には貼り紙があった。
明日は営業するらしい。ただ、私は明日仕事があるのだ。
五日目
消えてしまいたいと思った。